大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

甲府地方裁判所 昭和52年(ワ)284号 判決

原告 国

代理人 岡光民雄 由良卓郎 東松文雄 松本智 高橋弘行 今井一尋 武田光仁 ほか五名

被告 忍草入会組合

当事者参加人 山梨県

右補助参加人 富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合

主文

一  原告と当事者参加人との間において、当事者参加人が、別紙物件目録(一)記載の土地につき、所有権を有することを確認する。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の土地を開墾し、整地し、若しくは耕作し、若しくはこれに塔、やぐら、有刺鉄線柵その他の工作物を設置し、又は他人をしてこれらの行為をさせてはならない。

三  被告は、当事者参加人に対し、当事者参加人が補助参加人とともに別紙物件目録(一)記載の土地に植栽したアカマツ・カラマツ等を伐採したり引抜いたりする毀損行為をし、若しくは同土地を開墾し、整地し、若しくは耕作し、若しくはこれに塔、やぐら、有刺鉄線柵その他の工作物を設置し、又は他人をしてこれらの行為をさせてはならない。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告と被告との間においては、原告に生じた費用の一〇分の一を被告の負担とし、被告に生じた費用の二分の一を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、当事者参加人と原告及び被告との間においては、当事者参加人に生じた費用の一〇分の一を原告の負担とし、その余を被告の負担とし、補助参加の費用は全部被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録(一)及び(二)の土地を開墾し、整地し、若しくは耕作し、若しくはこれに塔、やぐら、有刺鉄線柵その他の工作物を設置し、又は他人をしてこれらの行為をさせてはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告(原告の請求の趣旨に対する答弁)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  当事者参加人(参加請求の趣旨)

1  主文第一項及び第三項と同旨。

2  参加による訴訟費用は原告及び被告の負担とする。

四  当事者参加請求の趣旨に対する原告の答弁

1  当事者参加人の原告に対する請求を棄却する。

2  参加による訴訟費用は当事者参加人の負担とする。

五  当事者参加請求の趣旨に対する被告の答弁

1  当事者参加人の被告に対する請求を棄却する。

2  参加による訴訟費用は当事者参加人の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  原告は、別紙物件目録(一)及び(二)の土地(以下「本件(一)(二)の土地」という)を昭和二九年三月六日、前所有者らから買収し、その所有権を取得した。

2  被告は、主として明治時代から継続して山梨県南都留郡忍野村忍草区(以下単に「忍草区」と略称するほか、「旧忍草村」「忍草部落」などとも称する)に居住し、現に農業を専業とする家の世帯主をもつて構成され、忍草区固有の入会地の保護管理及び利用並びに入会地から生ずる収益(現物及び金銭)の管理運営等を目的として、又入会地及び入会財産にかかわる一切の収益の管理運営及び処分に関する一切の事項等を業務として掲げるいわゆる権利能力なき社団であるところ、昭和五一年四月三日から八日間にわたり、その構成員らをして、ブルドーザー、トラクター及び草刈機などを使用して本件(一)(二)の土地のうち約二〇ヘクタールを開墾、整地したうえ、牧草の種を播種して右土地を耕作し、同年四月二五日、被告の構成員の家族で、前記忍草区の婦女子をもつて構成される「忍草母の会」の会員をして本件(一)(二)の土地内にじやがいもの種いもを植えたり、とうもろこしの種を播種させたりして本件(一)(二)の土地を耕作させ、さらに、被告が昭和五二年六月一一日その構成員らをして本件(一)(二)の土地に隣接する製材所の敷地において、丸太やぐらを組み立てさせたうえ、同月一八日未明これを本件(一)(二)の土地内に搬入しようとし、翌一九日にもこれを本件(一)(二)の土地内に搬入して設置しようとした。

3  よつて、原告は、被告に対し、所有権に基づき、本件(一)(二)の土地に対する妨害の予防を求める。

二  原告の請求の原因に対する被告の認否

1  原告の請求の原因1は認める。

2  同2のうち、被告がその構成員らをしてやぐらを本件(一)(二)の土地内に搬入しようとしたことは否認し、その余は認める。

3  同3は争う。

三  当事者参加請求の原因

1  当事者参加人は、昭和五二年九月五日、原告との間で、原告所有の本件(一)の土地を原告から買い受ける契約(以下「本件売買」という)を締結した。

2(一)  原告の被告に対する請求の原因2に同じ。

(二)  その後、当事者参加人は、補助参加人との間で、昭和五二年一二月二七日、地上権者を補助参加人として、別紙物件目録(一)2、9、11、13、14、16ないし160及び163記載の各土地について、期間六〇年とする造林を目的とする分収造林契約を締結し、補助参加人は、右分収造林契約に基づき、昭和五三年四月一三日より同年五月一二日までの間に、右土地上にアカマツ三三万三八四〇本、カラマツ四万二八九五本合計三七万六七三五本の苗木の植栽を完了したところ、被告は、本件(一)(二)の土地を含む梨ヶ原一帯の土地上に専有入会権があると称して、その構成員らをして同年四月一九日から同年一〇月二〇日までの間に合計一一万七三四六本の植栽苗木を引き抜かせ、植林行為の妨害を間断なく繰り返し、特に同年五月一四日には、被告の構成員約八〇人をして本件(一)の土地に立入らせて、前日補助参加人が植栽したアカマツ、カラマツ約四二〇〇本の苗木を引き抜かせ、そのうえで約一・一ヘクタールの土地に牧草の種を播種した。また、当事者参加人は、昭和五四年一二月四日、補助参加人との間で、別紙物件目録(一)1、3ないし8、10、12、15、161及び162記載の各土地につき、前同様の分収造林契約を締結し、補助参加人は、右土地上に、アカマツ二万二二〇〇本の苗木の植栽を完了したが、その後においても、被告組合員によつて合計五万五七三本の植栽木が不法に伐採された。そして、被告は、右土地を含む本件(一)の土地上に、昭和五五年四月二七日、高さ約四メートル、幅約二〇メートルの掲示板と高さ約八メートルの「富士を中東につなぐな」という垂幕を建設し、昭和五七年九月二二日、「口上」と称する大看板を建設し、昭和五八年二月六日早朝、東富士道路建設反対のため、縦・横各九〇センチメートルの「測量人禁制忍草入会組合」という看板を五〇本設置し、同年六月二二日、「演習場使用協定に違反して演習を強行している自衛隊の不法行為に関する通告書」と書いた大看板を設置した。

(三)  従つて、被告は、今後も本件(一)の土地上において、植栽された樹木を伐採し、その跡地に牧草の種を播種したり、あるいは本件(一)の土地を含む梨ヶ原一帯に強力な入会権があるとして、東富士道路建設の阻止あるいは北富士演習場の使用反対のため本件(一)の土地上に引き続き看板等の工作物を設置するなど、当事者参加人の本件(一)の土地の使用につき、その妨害行為を繰り返すおそれが十分ある。

3  よつて、当事者参加人は、原告に対し、本件(一)の土地の所有権が当事者参加人にあることの確認を求め、被告に対し、所有権に基づいて、本件(一)の土地に対する妨害の予防を求める。

四  当事者参加請求の原因に対する原告の認否

1  当事者参加人の請求の原因1は認める。

2  同3は争う。

五  当事者参加請求の原因に対する被告の認否

1  当事者参加人の請求の原因1は認める。

2(一)  同2(一)の認否は、原告の請求の原因に対する被告の認否2に同じ。

(二)  同2の(二)のうち、被告が、当事者参加人主張のような植林妨害を行つたことは否認し、その余は不知。

3  同3は争う。

六  被告の抗弁

1  本件売買契約の無効(当事者参加人に対し)

(一) 本件売買は、随意契約により行われたが、法令上、随意契約によることができない場合であるから無効である。

すなわち、本件売買は、当事者参加人が本件(一)の土地を直接必要としたものではなく、本件(一)の土地を補助参加人に再払下げして、営利を目的とする造林事業経営に供さしめるため、便法としてなされたにすぎないものであるから、予算決算及び会計令(以下「予決令」という)九九条二一号にいう「公共用、公用又は公益事業の用に供するため必要な物件を直接に公共団体に売り払うとき。」に該当せず、また、その他本件売買が予決令九九条各号所定の場合に該当しないことも明らかであるから、本件売買は、会計法二九条の三第五項、予決令九九条に違反し無効である。

(二) 本件売買は、農地法に違反し無効である。

すなわち、本件(一)の土地は、農地法上の農地あるいは採草放牧地というべきであつて、本件売買においては農地転用許可が必要であるところ、右手続はとられていないから、本件売買は無効である。

2  入会権の存在(原告及び当事者参加人に対し)

(一) 被告組合員の居住している忍草部落は、富士山北麓の高冷地で、酸性火山灰土壌で農耕による生産が極めて低いため、同部落の住民は、古くから大量の生草を採取して堆肥を作り、牛馬を飼育して農業経営を支えてきたが、そのため同住民は江戸時代から現在に至るまで、集団の統制管理のもとで本件(一)(二)の土地を含む通称梨ヶ原一帯に立ち入つて、堆肥あるいは飼料用の生草を保護管理し、桑を植え、これらを採取するなどの慣習がある。すなわち、右部落住民は、本件(一)(二)の土地について自由に使用収益しうる入会権を有していたのであるが、その後右部落住民の入会団体をもつて組織された被告が右入会住民の入会の統制と入会地及び入会収益の管理をしているのである。

(二) 仮に右の入会権が、本件(一)(二)の土地等の訴外富士山麓土地株式会社(以下「訴外会社」という)への売却あるいは、未墾地買収によつて消滅したことがあるとしても、その後においても、忍草区住民である被告組合員及びその父祖らは、被告の管理統制のもとに本件(一)(二)の土地に入会い、これが慣行となつているから新たに入会権が発生した。

3  権利の濫用(原告及び当事者参加人に対し)

(一) 被告の本件(一)(二)の土地への立入り状況

被告の組合員は、その父祖の代から本件(一)(二)の土地に継続的に立ち入り、田畑の堆肥のための採草、養蚕のための桑栽培、採木、暖房用あるいは養蚕用の薪の収集、牛馬の食糧用の草の採草等を行つてきたのであつて、本件(一)(二)の土地は被告組合員の営農・生活にとつて不可欠の土地である。また、従前自然草木の採取に際しても火入れ等の管理はなしてきたのであつて、純粋に自然草木をあるがままに採取してきたのではない。

(二) 当事者参加人らの正当な利益の欠缺

本件(一)の土地は近隣の土地とともに、当初補助参加人に払下げられる予定であつたところ、補助参加人が訴外富士急行株式会社に対してその所有土地の一部を観光用として貸与し林業経営を一部放棄するような事実が明らかとなつたり、又、新屋農民の耕作地の問題、忍草の植林地、入会権の問題が生じてきたため、原告は、右払下げ土地での林業経営をなすことを払い下げの基本とするものの、地元民生の安定、地元権益の調整をはかる目的で当事者参加人に本件(一)の土地及び近隣の土地を譲渡したものであるから、原告及び当事者参加人としては地元民生の安定ということが真の利益であつて、植林等に独立した利益を有しているわけではない。しかも、本件(一)の土地等における植林事業自体地元権益の保護等には役立つものではない。すなわち、当事者参加人らは、植林事業の必要性として、植林事業による利益や水害防止等の理由をあげているが、現在の時点で土地の高度利用として植林が採算にあうものかどうか疑問の多いところであり、又、右払下げ地付近には「カヤノムネ」と名付けられた丘が存在し、右払下げ地に対する防水堤となつて、水は右払下げ地の両側の堀に流れていく地形となつており過去五〇年間水害が発生していないのであるから水害防止のためという理由も合理性がない。

(三) 本件(一)の土地等への植林と被告の不利益

植林にともなつて苗木の間の草木を採取することは極めて困難となり、又、植栽木が成長するにしたがつて地面の採光は極端に悪くなり草木は成長せず、しかも、補助参加人によつて草は、定期的に刈られ、採草もできない現状となつており、本件(一)の土地等に植林されることによつて受ける被告の不利益は著しい。

(四) 当事者参加人と被告との協議の欠缺

被告組合員の長年にわたる本件(一)の土地等への立ち入りが法的に入会権と認めうるかどうかはともかくとして、地元権益の調整という観点でいえば、被告との権益調整は不可欠のことであり、又、当事者参加人は地元の入会慣行は尊重するとたびたび言明しているにもかかわらず、当事者参加人らは、被告と全く協議することなく本訴を提起した。

七  被告の抗弁に対する原告及び当事者参加人の認否

1  (当事者参加人)

(一) 同1(一)のうち、本件売買が随意契約によつて行われたことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同1(二)は否認する。本件売買は、農地法五条一項一号に該当し、農林水産大臣の農地転用許可を必要としない。

2  (原告及び当事者参加人)

被告の抗弁2はすべて否認する。江戸時代から明治の初期にかけて本件(一)(二)の土地及びその近隣の土地に旧地元一一か村(上吉田・新屋・松山・下吉田・新倉・大明見・小明見・山中・長池・平野・忍草をいい、明治八年に上吉田・新屋・松山の三か村が福地村、下吉田・新倉の二か村が瑞穂村、大明見・小明見の二か村が明見村、山中・長池・平野の三か村が中野村となり、忍草村は前記一一か村以外の内野村とともに忍野村となつた。福地・瑞穂・明見の三村は、その後それぞれ町制を布き、富士上吉田町・下吉田町・明見町となつたが、昭和二六年に合併して富士吉田市となつた。中野村は昭和四〇年山中湖村と改称した。以下「旧一一か村」という)の住民が無差別に入会つていたのであつて、旧忍草村の住民だけが本件(一)(二)の土地に入会つていたわけではない。

3  (原告及び当事者参加人)

同3はすべて否認する。

八  原告及び当事者参加人の再抗弁(入会権の消滅)

1  〈1〉本件(一)(二)の土地を含むその近隣土地二三四町五反七畝二九歩の土地(別紙図面の赤線で囲まれた区域)は、明治九年六月二六日旧忍草村を含む旧一一か村の共有地となつたが、明治二六年ころ、右共有地を分割し、これを地元住民に個別利用させるよう共有関係村(旧一一か村の合併などにより当時は福地村・瑞穂村・明見村・中野村・忍野村(旧忍草村と内野村の合併村))の連合村会において決議され、本件(一)(二)の土地は約三反ないし五反歩に分割して旧忍草村の住民を含む右五か村の地元住民中の希望者に貸し付けられ、右分割地の割当を受けた者は、そこを、桑園ないし畑として利用し、一部の者は植林した。このような状態は、昭和二年ころまで継続し、昭和二年当時、本件(一)(二)の土地は、二九七個に分割され、個別的に利用されていた。

〈2〉 その後、福地村・瑞穂村・明見村・中野村・忍野村(このうち旧忍草村のみ)は、福地村外四ヶ村恩賜県有財産保護組合(以下「保護組合」という)(昭和二三年一〇月「富士上吉田町外四ヶ町村恩賜県有財産保護組合」と、更に同二六年三月「富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合」と改称)を作り、大正元年に右共有地の所有名義を保護組合に移転し、以後、右共有地の管理、分割貸付地の小作料の徴収運用などの業務にあたらせることとした。そして、保護組合は、本件(一)(二)の土地を含む別紙図面の緑色区域を別荘地及び鉄道用地として訴外会社に売却すべく、保護組合議会の全員一致の議決を経て、訴外会社との間で、大正一五年一一月二二日、売買代金二三万二〇〇〇円をもつて売買契約を締結した。

〈3〉 そして、昭和二年三月一三日、保護組合は、本件(一)(二)の土地を含む前記緑色区域の分割利用者小野せき外二九八名全員に退去料名義の補償を支払い、同区域土地に対する占有権その他地上物件の所有権を取得して、訴外会社に譲渡し、引渡しを完了したが、右売却については忍草部落の住民は格別反対せず、全員同意し、入会補償なども問題とされたことは全くない。したがつて、訴外会社へ売却された際、本件(一)(二)の土地についての入会権は、放棄されて消滅した。

2  そして、右訴外会社は、本件(一)(二)の土地を別荘地として分譲するため、南北の方向に約九〇メートルの間隔で三七本の道路を建設するなど区画作業を進め、右土地の約六〇パーセントを五七八名の株主に一区画約三六〇坪単位で分譲し、分筆登記及び移転登記を了した。

したがつて、本件(一)(二)の土地についての忍草住民の入会慣行は、右のような情況から右の時点で完全に廃止され、忍草部落住民の入会権、したがつて被告の入会権は名実ともに消滅した。

3  そうでないとしても、戦後多数の引揚者が満州から帰国し、かつ、極端な食糧難の時代であつたので、原告は、昭和二二年一〇月二日、本件(一)(二)の土地を含む梨ヶ原一九九町歩余を、自作農創設特別措置法により未墾地として買収した。その後は入植開拓者らの専ら開拓にまかせられ、付近住民の右土地における入会は実際上も廃止された。

したがつて、忍草部落住民の本件(一)(二)の土地に対する入会権、すなわち、被告の入会権は、右買収処分により、法的(同法三四条一項、一二条一項)に、また実際的にも消滅した。

九  原告及び当事者参加人の再抗弁に対する被告の認否

1  原告及び当事者参加人の再抗弁1のうち、〈1〉及び〈2〉の各事実は認めるが〈3〉は否認する。

明治二六年ころからの本件(一)(二)の土地の分割利用は、入会集団全員の入会行為をひとまず止め、入会地の一部を分割して、これを貸し付け、その収益をあげるという契約利用であり、忍草部落住民は、他に貸付けられていない土地は勿論のこと、貸付地についてもその利用に触れない限りにおいて入会行為を続行してきたものである。

また、昭和二年三月頃右分割利用がなくなつてから後は、忍草部落住民の本件(一)(二)の土地に対する入会慣行が全面的に復活し、同住民は本件(一)(二)の土地に立入つて採草採薪などをするようになつた。

2  同2は否認する。訴外会社の道路整備とはいつてもブルドーザーで草を刈つた程度で入会に対する影響はなく、忍草部落住民は従前どおり、本件(一)(二)の土地に入会つていた。

3  同3のうち、買収により入会権が消滅したことは否認し、その余は認める。

買収にあたつて、被告は何らの補償も受けていないし、かつ、被告の構成員である忍草区住民は、その後も本件(一)(二)の土地に入会つていたから、被告の本件(一)(二)の土地に対する入会権は、買収処分によつても消滅していない。

第三証拠関係 <略>

理由

一  (争いのない事実)

原告が本件(一)(二)の土地を昭和二九年三月六日前所有者らから買収して所有権を取得したことは原・被告間において争いがなく、当事者参加人が昭和五二年九月五日原告との間で原告所有の本件(一)の土地につき売買契約を締結したことは当事者参加人と原告及び被告との間において当事者間に争いがない。

二  (本件売買の効力)

1  会計法違反について

本件売買が随意契約により行われたことは当事者間に争いがない。

ところで、<証拠略>によれば、本件売買においては、本件(一)の土地を含む二一〇ヘクタールの土地が原告から当事者参加人に払下げられたが、右土地について補助参加人に林業整備事業を行わせ、将来補助参加人に再払い下げがなされることが予定されていたことが認められる。しかしながら、<証拠略>によれば、(一)右二一〇ヘクタールの土地は、当初、原告から補助参加人に払い下げられる予定であつたが、右土地についてその他の団体等から多数払い下げ申請があり、また、被告が右土地のうち檜丸尾に植栽した立木の問題等右土地を巡つて紛争があつたため、原告は、当事者参加人に右土地を払い下げて、林業整備事業を推進させるとともに、右紛争の円満解決にあたらせることとなつたこと、(二)原告は、当事者参加人に右土地を払い下げ、林業整備事業を行わせることによつて、(1)地元の産業振興に寄与すること、(2)富士山一帯の自然環境の保護を図ること、(3)演習場の使用による土地の荒廃に起因する洪水、土砂流出等の災害を防止軽減すること、(4)演習場周辺の保安、防音等のための緩衝地帯とすることの効果を期待したこと、(三)当事者参加人は、本件売買契約において、原告から右土地の植林を完了した日から六〇年間右趣旨に則つた林業整備事業に供することを義務付けられ、その間、原告の承諾なく右土地の所有権を移転することを禁じられていること、(四)補助参加人への再払い下げは、将来の可能性として残されているが、補助参加人の行う林業整備事業が定着した時点において、原告の承諾を得てなされることがあることが認められる。これによると、本件売買の目的物件たる本件(一)の土地を含む右土地は当事者参加人において公共用又は公益事業の用に供するため必要な物件であり、原告はこれを直接に公共団体である当事者参加人に売り払つたものであり、予決令九九条二一号の場合に該当すると認めるのが相当である。

2  農地法違反について

本件(一)の土地が被告主張のとおり、農地あるいは採草放牧地であつたとしても、買主たる当事者参加人は地方公共団体たる県であるから、本件売買は、農地法五条一項一号に該当し、農林水産大臣の許可を要しない。従つて、被告のこの点の主張も理由がない。

三  (被告とその侵害行為)

1  被告は、主として明治時代から継続して山梨県南都留郡忍野村忍草区に居住し、現に農業を専業とする家の世帯主をもつて構成され、忍草区固有の入会地の保護管理及び利用並びに入会地から生ずる収益(現物及び金銭)の管理運営等を目的として、又、入会地及び入会財産にかかわる一切の収益の管理運営及び処分に関する一切の事項等を業務として掲げるいわゆる権利能力なき社団であること、並びに被告が、その構成員らをして、昭和五一年四月三日から八日間にわたり、ブルドーザー、トラクター及び草刈機などを使用して本件(一)(二)の土地のうち約二〇ヘクタールを開墾、整地したうえ、牧草の種を播種して右土地を耕作し、同年四月二五日、被告の構成員の家族で、前記忍草区の婦女子をもつて構成される「忍草母の会」の会員をして本件(一)(二)の土地内にじやがいもの種芋を植栽させ、とうもろこしの種を播種させたりして本件(一)(二)の土地を耕作させ、さらに、被告が、昭和五二年六月一一日、その構成員らをして、本件(一)(二)の土地に隣接する製材所の敷地内において、丸太やぐらを組み立てさせたこと、以上のことは原告及び当事者参加人と被告との間において、当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、被告は、同月一八日ころ右丸太やぐらを、本件(一)(二)の土地内に搬入し設置しようとしたことが認められる。

2  <証拠略>によると、当事者参加請求の原因2(二)が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  右1、2において各認定したところからすると、被告は、今後においても、原告所有の本件(二)の土地及び当事者参加人所有(一)の土地に入会権を主張して、これら土地を開墾し、整地し、耕作し、若しくはこれに塔、やぐら、有刺鉄線柵その他の工作物を設置し、又、当事者参加人が補助参加人とともに本件(一)の土地に植栽したアカマツ・カラマツ等を伐採したり引抜いたりする毀損行為をなすおそれがあることを推認することができる。

四  (被告主張の入会権について)

1  被告が主張する本件(一)(二)の土地に対する入会権の故に、これら土地において前示認定のような行為に出ることが許されるかどうかはさておき、まず、被告の入会権の存否について判断する。

2  本件(一)(二)の土地と旧忍草村住民の入会権

<証拠略>によれば、本件(一)(二)の土地を含む通称梨ヶ原一帯は、江戸時代から旧一一か村の住民が、集団としての管理統制のもとに、同住民である限りにおいて、右土地全部について自由に立入つて採草、採薪などしていたが、特に本件(一)(二)の土地は、旧忍草村に最も近いことから、主に同村民が入会い、堆肥、飼料用の生草を採取し、桑を植栽するなどし、これが慣習となつていたこと、明治九年の官民有地区分に際し、旧山中村が、右梨ヶ原一帯の土地について単独の所有権を主張したため、外の旧一〇か村がこれに反対して山梨裁判所に訴求したところ、明治九年六月二六日、山中村と外の旧一〇か村との間で和解が成立し、右土地について旧一一か村の共有とすることとし、同年七月旧一一か村共有名義で地券の交付を受けたこと、右のような形態の入会の慣習は明治二六年まで続いたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。以上、本件(一)(二)の土地を含む通称梨ヶ原一帯は、旧一一か村の共有に属し、江戸時代から旧忍草村を含む旧一一か村の住民が集団としての管理統制のもとで、区域を決めないで共同で入会つていたいわゆる共同利用形態の入会の慣習があり、この形態の入会の慣習は明治二六年まで続き、旧忍草村住民は本件(一)(二)の土地につき旧一一か村の他の住民と共に共有の性質を有する入会権を有していたと認めるのが相当である。

3  忍草部落住民の入会権の消滅(入会地毛上の使用収益方法の変遷)

再抗弁1のうち、〈1〉及び〈2〉の各事実は被告と原告及び当事者参加人間において、いずれも当事者間に争いがない。

そして、<証拠略>によれば、

(一)  明治二六年ころに連合村会において本件(一)(二)の土地を含む別紙図面の赤線で囲まれた土地の分割利用を決議した際、旧忍草村を含む旧一一か村の住民から異議など出なかつた。

(二)  本件(一)(二)の土地を含む通称梨ヶ原に入会権を持つ旧一一か村の農家の世帯数は、大正一五年当時で二〇五五世帯(そのうち、忍草部落一二〇世帯)であり、そのうち、本件(一)(二)の土地を分割利用していた農家は二九七世帯(そのうち、忍草部落八三世帯)であつた。

(三)  本件(一)(二)の土地以外にも、分割利用されていた旧一一か村の共有地があつて、一五一戸の農家が利用し、また、その外に旧一一か村の入会地もあつて、旧一一か村の住民が採草等を行つていた。

(四)  分割地の利用者は、小作人と呼ばれ、地盤の所有者である福地村外四か村(大正元年からは保護組合)に対し、一区画二円五〇銭という当時としてはかなり高額の小作料を支払つており、昭和二年に至るまで分割を受けた土地を専用的に占有し、独占排他的に使用収益していた。

(五)  保護組合は、福地村外四か村(旧一一か村)(その後、昭和二三年ころ「富士上吉田町外四ヶ村」となり、更に同二六年ころ「富士吉田外二ヶ村」となる)が、その共有地及び入会地の管理のための機関として組織(一部事務組合)したもので、大正元年以降、分割貸付地の小作料の徴収等本件(一)(二)の土地を含む右五か村の共有地を管理・処分する権限を有していた。

(六)  本件(一)(二)の土地を含む別紙図面の緑色区域の土地の訴外会社への売却に対し、分割利用者らから反対があつたが、保護組合と分割利用者らが話し合つた結果、昭和二年三月一三日、保護組合が、右区域の分割利用者小野せき外二九八名全員に対し退去料名義で補償を支払い、分割利用者は、右区域土地上から退去して同土地を明渡し、同土地上の立木その他の物件の所有権をすべて保護組合に譲渡することに同意することで話がまとまり、その直後、分割利用者全員は、右区域の土地から退去し、保護組合は訴外会社に対し、右区域の土地の引渡を完了した。

(七)  右区域の土地の訴外会社への売却に際し、同土地が別荘地及び鉄道敷地として売却されるものであるにもかかわらず、分割利用者以外の者からの特段の異議は出なかつた。

(八)  訴外会社は、右区域内の本件(一)(二)の土地を別荘地として分譲するため、南北の方向に約九〇メートルの間隔で三七本の道路を建設するなど区画作業を進め、本件(一)(二)の土地の約六〇パーセントを五二八名の株主に一区画約三六〇坪単位で分譲し、また、本件(一)(二)の土地に立ち入り禁止の立札を立て、管理人を置いて盗伐の監視にあたらせるようになつた。しかし、本件(一)(二)の土地には結局のところ別荘は建たず、分割利用者が土地を明け渡した後は、自然と草が生えるようになり、忍草部落の住民や、近隣村落の住民が本件(一)(二)の土地に立ち入り、草を刈つたり、分割利用時代に植えられた桑をとつたりするようになつたが、これらは以前のような集団としての管理統制のもとでなされたものではないし、保護組合の管理統制のもとでなされたものでもなく、右住民らがそれぞれ勝手になしていたものであつた。また、訴外会社も近隣住民の本件(一)(二)の土地への立入り、草刈り、桑の採取を黙認していたにすぎなかつた。

(九)  右のような状態は昭和二〇年ころまで続いたが、戦後多数の満州からの引揚者が帰国し、山梨県の斡旋で、本件(一)(二)の土地に入植することとなり、これに近隣住民の一部の者も加わつて、本件(一)(二)の土地を開墾し、麦、芋類等を植えるなどして耕作するようになり、昭和二五年当時、右開墾者で組織された梨ヶ原開拓協同組合の開墾進度は八三パーセント、作付面積は麦類一二九反等総計九七八反であつた。そして、右開墾者らが本件(一)(二)の土地を開墾して耕作したことについて、忍草部落の住民を含む旧一一か村の住民らと紛争が生じたり、同住民らから反対されたりなどしたことはなかつた。

(一〇)  原告は、昭和二二年一〇月二日、訴外会社等から本件(一)(二)の土地を自作農創設特別措置法により未墾地買収し、昭和二五年二月一日、右開墾者らに対し、同法により、本件(一)(二)の土地を売り渡したが、同日、また、駐留アメリカ軍の演習場用地として本件(一)(二)の土地を右開墾者らから借り上げ、さらに昭和二九年三月六日、調達命令により、右開墾者らから買収した。右開墾者らの耕作は、右買収のころまで続いたが、その後は立入りを禁止された。

以上の事実が認められ、<証拠略>のうち、右認定に反する部分は、前記各証拠に照らし措信することができない。

以上によると、本件(一)(二)の土地についての旧忍草村を含む旧一一か村住民の入会権は、明治二六年に福地村外四か村の連合村会によつて分割貸付されて、高額の小作料が徴収され、分割地につき貸付を受けた者による専用的占有と独占排他的使用収益が許されるに至り、更に保護組合によつて、本件(一)(二)の土地を含む別紙図面緑色区域の土地が訴外会社に売却され、昭和二年三月頃分割利用者らから明渡を受けて、同会社に引渡がなされたのに対し、従前の入会部落住民から何ら異議がなかつたことにより、従前の入会集団による管理統制による入会地毛上の使用収益方法は変質して、従前の部落住民の入会慣行は消滅し、忍草区住民の入会権は完全に解体消滅したと認めるのが相当である。

もつとも、忍草部落の住民らの一部は、その後も本件(一)(二)の土地に立入り、採草等を行つてはいたが、右は、訴外会社の黙認のもとに、住民個人が勝手に行つていたものであつて、従前の慣行のように入会集団又は入会団体の管理統制に基づいてなしていたものではないこと前示認定のとおりであるから、被告主張のごとく、明治二六年の分割貸付により一時停止されていた入会慣行が復活され、忍草部落住民の入会権が顕在化したものであるとは到底認めることはできない。

4  入会権の再発生の有無

被告は、本件(一)(二)の土地に対する入会権が訴外会社に売却されたころ、一旦消滅したとしても、その後の被告統制のもと忍草区住民による立入り、採草などによつて新たな入会慣行が生れ、忍草区住民は入会権を有する旨主張するが、その主張のような新たな入会慣行が生れたとまで認めるに足りる証拠はない。かえつて前記認定のところからすると、その後の本件(一)(二)の土地に対する一部近隣住民の立入り採草等は黙認されるままに集団としての統制もなく、個々的に立入つて、採草等収益していたものであることが認められるので、忍草区住民が新たな入会権を取得したなどとはいえない。

5  被告と入会権

本件(一)(二)の土地に対する忍草区の住民の入会権が消滅して存在しない以上、右住民をもつて構成する被告自身が同土地につき入会権を有するものともいえないし、右住民の入会権を援用するということもあり得ないから、その存在を前提とする被告の主張は理由がない。

五  権利濫用について(抗弁3)

被告は、原告及び当事者参加人の各請求は権利の濫用であつて許されないと主張するが、被告が抗弁3において主張するような諸事情があるとしても、被告において、本件(一)(二)の土地において前示認定のような行為に出ることは自救的行為としても許さるべきではないのみならず、被告の構成員たる忍草区の住民が入会権を有しないこと既に認定したとおりである以上、右行為に出る正当性は全くないといわなければならないから、右行為を阻止しようとする原告及び当事者参加人の被告に対する本件各請求は権利の濫用であり許されないなどとは到底いうことができない。その他原告及び当事者参加人の被告に対する本件各請求を権利の濫用であり許されないとするような事由は全く見当らない。

したがつて被告の抗弁3の主張は理由がない。

六  結論

以上のとおりであるから、当事者参加人の原告及び被告に対する各請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、原告の被告に対する請求は、本件(二)の土地について妨害予防を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三井喜彦 廣永伸行 森宏司)

物件目録(一)、(二) <略>

図面 <略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例